朝は9時から英語の授業。メランコリー概念をめぐる歴史論文の3パラグラフの文章に出てくる15個の動詞を消して、カッコの中に入る適切な動詞を考えよう(ただし選択式)、というもの。ペアになったイタリア人の院生とあーでもないこーでもない、と話し合う。最後にオリジナルの文章と突き合わせたが、15個中合っていたのは3分の一だった…。
13時からはいつものように統合史セミナー
今日の文献は、
Charlotte Bretherton & John Vogler, The European Union as Global Actor, Routledge, のうち第二章"The EU as an economic power and trade actor"とConclusion
Guiliano Garavini, "Foreign Policy beyond the Nation-State: Conceptualizing the External Dimension", in Kaiser & Varsori (eds.), History of the European Union, Palgrave.
で、EUの対外的側面について。
Bretheron&Voglerの文献は、主として90年代以降EUの対外経済・貿易関係のまとめ。GATT交渉やEUの対日、対米貿易についての特徴について書かれていて、文章は長いのだが、一言で言ってやや退屈。Conclusionでは政治学らしい用語が満ち溢れているのだが、正直何が言いたいのかよくわからない。
これに対してGaraviniのは、統合史における対外的側面に関する研究史のまとめなのだが、ここ最近の統合史の傾向を反映してか、60年代後半から70年代中盤にかけての統合史の対外的側面の研究がヨーロッパのアイデンティティの確立と結びつきながら展開していることを指摘している。そして最後に今後の展望が明確に書いてあり、政府だけにとどまらない政治的・経済的・社会的アクターへの注目を行うべきだと言う。特に世論、労組、シンクタンクが与えた影響などの分析の必要性を指摘する。また、68年以降の新しい社会運動がヨーロッパ統合にどのような影響を与えたのかを分析する必要がある、という。とても明確で分かりやすい。
論点は、そもそもEUの対外政策って何?、という随分ベーシックなところからスタート。たぶん、出席者がそれぞれいろんな意味で基礎的な知識が欠けている、と特に討論の進行役Aurellieが考えているからだろう。しかし議論は、対外経済関係の細かい話には一切行かず、EUが対外的や役割を果たす際のその独自性に注意するべし、という話にすぐに移行した(このあたりはRomeroが強引に路線転換)。このあたりは、第一回目のSheehanの議論とも関係するが、EUは軍事的なパワーにはならないが世界政治上の経済的・政治的なアクターではある。
SheehanはそのようなEUの非軍事的パワーのあり方にやや否定的な態度だったが、Romeroは、EUの対外的役割はCivilian Power論からも分かるように、規範的な存在として役割を発揮していることにあり、それがEUの独自性につながっていることに注目するべきだ、と言う。そして、そのようなアメリカ(や冷戦時におけるソ連)と言った軍事的存在は異なる規範的存在に自らのアイデンティティを置いたのであり、それが確立したのは確かに80年代から90年代にかけてなのだが、歴史的にさかのぼると、一つの起源は73年のヨーロッパ・アイデンティティ宣言にある、と。
と言う解説を受けて、議論は完全にヨーロッパ・アイデンティティをめぐって。出席者のうち、二人もがヨーロッパ・アイデンティティで博論を書こうとしているので仕方がないと言えばそうだが、EUの対外的側面やEUの対外政策に関する議論はどこかにいってしまった。
ところで、73年のヨーロッパ・アイデンティティ宣言については、自分も論文で取り上げたので、それが対外的側面のものとして登場したことは知っていたが(正確には、日本では対内的な側面しか取り上げられてこなかったので、それとは違う側面があることを紹介したかったのだが)、やはり話はもう少し複雑で、対外的側面(つまり世界政治におけるEUのアクターとしての独自性の獲得と発揮という側面)としてのアイデンティティ(自分はNation-Stateでもないし、米ソのような力を追及している訳でもない)と、対内的な側面はどちらもあって、うまくつながれないままにどさっと歴史の中に放り出されているような状態なのだ。
この論点は、もうすこし複雑で出席者の問題関心の傾向からして、まだまだ議論は続くだろう。
さらに、自分たち(EIHP)の統合史通史本のEU-NATO-CEレジームの議論に対して、EU-NATOがつながっているのは分かったが、EU-CEのつながりはどうなの?、という疑問を解消するもっと実証的な論点にもつながっていくような気がする。
さ来週は自分が発表者なので、自分の関心からこの論点についてしゃべってみたいとは思う。どこまで受け止めてもらえるかは定かではないが。
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